「プログラミング未経験、貯金100万円でアプリで独立」400万ダウンロードの脱出ゲーム「CUBIC ROOM」を生んだアプリ職人の細部へのこだわり。

2014年11月10日 |
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脱出ゲーム「CUBIC ROOM」シリーズ、「みつけて!おじぽっくる」などをつくっている個人アプリ開発者、「Appliss」の貝森さんのインタビューを前後編に分けてお届けします。

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※Applissの貝森さん。

会社員でいることにリスクを感じ、アプリ開発者になった。

貝森さんはアプリ開発をやる前は何をされてたんですか?

貝森:
美術大学を卒業して、とあるメーカーでデザイナーとして勤務していました。でも2年ほど働いた結果、独立することにしたんです。

どうして、独立しようと思ったんですか。

貝森:
実はすごく心配性で・・・心配性だから独立しました。(いつも「逆だろ」と言われるんですが。笑)

というのも、終身雇用ってもはや幻想だと思いますし、会社員として「その企業内でしか通用しないスキル」を磨いていくことにリスクしか感じなかったんです。

そんな時、iPhoneやネットビジネスの登場を見て「個人でも勝負できる時代が来た」と感じました。

独立する前に、プログラミングはできていたということでしょうか?

貝森:
まったくできませんでした。なので、会社を辞めてからまずプログラミング(ObjectiveC)を勉強するところからスタートしました。出来たのはデザイン周りだけですね。

「会社で働きながらプログラミングを勉強しよう」とはならなかったんですね。

貝森:
なんだかんだ甘えが出てきてしまうんですよね、「仕事が忙しいんだから、勉強できないのは仕方ない」みたいな。

それで、言い訳ばかり探している自分にも嫌気がさしてきて・・・。

だから、もう後ろ盾をなくしてしまおうと、思い切って辞めてしまいました。退職した時点では貯金が100万円しかありませんでしたが、「なんとかなるだろう」という根拠のない自信はありました。

最初のアプリはいつ頃だしたのでしょうか、それまでは収入はどうしていたんですか?

貝森:
プログラミングの勉強をはじめて3ヶ月後、2012年の年末に「CUBIC ROOM」の第一作目を出しました。

それまでは、デザインの修行も兼ねて「ランサーズ」のデザインコンペで、月に10-20万円くらいの収入を稼いで生きていましたね。

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どうして一発目に「脱出ゲーム」をつくろうと考えたんですか。

貝森:
2つ理由があります。ひとつは「脱出ゲーム」って「タップして画面が切り替わる」という動作がメインなので、プログラミングが簡単そうだと思ったから。

そしてふたつ目は「脱出ゲーム」は数自体はたくさんあったのですが、クオリティが高いアプリが少ないように思えたためです。

「3Dレンダリングを使って、美しいグラフィックの脱出ゲームをだせれば、ヒットするのでは」と考えていました。

「脱出ゲーム」は実際つくってみて簡単だったでしょうか?

貝森:
やってみたら大変でしたね笑。企画面では「謎解き」のネタを考えるのに苦労しました。

プログラミング面では「フラグ管理」の調整に意外と手間がかかりましたね。

つまり「このアイテムをとったらドアが開く」みたいな条件を、複雑に組み込もうとすると、全体でバグなどが起きやすいんです。

「CUBIC ROOM」について

CUBIC ROOM1、2、3で一番ヒットしたのはどれでしょうか。

貝森:
2、1、3の順番です。「CUBIC ROOM2」はAppStore総合1位をとることもできて、160万ダウンロードまでいきました。

「CUBIC ROOM1」が143万ダウンロード、「CUBIC ROOM 3」が115万ダウンロードです。(※すべてiOSのみ)

cubicroom_download
※シリーズ3作で400万ダウンロードを突破している。

「CUBIC ROOM1」を出した時って、全く無名だったと思いますが、何か特別にやったことはあるのでしょうか。

貝森:
アプリレビューサイトさんにレビュー依頼を送ったぐらいです。「AppBank」でスプリングまおさんが取り上げてくれた時には、ランキングが一気に上がりました。

他の脱出ゲームと比べて、クオリティが頭一つ抜けてたということなんですかね、「CUBIC ROOM」で一番こだわったところはどこでしょうか?

貝森:
やはり「クオリティは細部に宿る」と考えているので、細かいところにひたすらこだわり続けました。

まずグラフィックに関しては、10万円ほどする本格的なレンダリングソフトを使って、写真と見間違えるくらいきれいなCGを目指しました。

効果音(SE)もかなり選定しているのかなと感じました。

貝森:
はい、効果音(SE)も例えば「引き出しの音」ひとつ選ぶのにも、材質・密度感・サイズなど、音だけで臨場感が伝わるように選定しています。

意外と重要なのが「何もないことを示すSE」ですかね。壁とかをタップすると「カッ」と鳴ったりするSEです。

なぜかというと、脱出ゲームでは「何かありそうなところ」をタップして何も反応が無いと、「タップが認識されていないのか?」とユーザーのストレスにつながってしまうためです。

操作性、UIはどうでしょうか?

貝森:
「CUBIC ROOM」では全てスワイプで操作できるようにつくりました。

当時の脱出ゲームって「矢印ボタン」を押して移動していたのですが、それだと毎回「目でボタン位置を確認」してから「指を移動させてタップ」という二段階の動作が必要になってしまうんです。

小さなことですが、「指の動き」を最小限にすることで、脳の負担も最小限になり、没入感の高さにもつながると考えて、スワイプで操作が完結するようにしました。

cubicroom_interface

「アプリのクオリティを上げる」という意味で、他にポイントだとおもうことはありますか?

貝森:
個人開発で意外とないがしろにされているのが「フォント」だと思います。「有料フォント」をつかうと、見た目のクオリティがだいぶアップしますよね。

「CUBIC ROOM」では予算がなくて断念したのですが、「おじぽっくる」ではSuicaの広告などでも採用されている有料フォントを使用しています。

もちろん素晴らしい無料フォントもたくさんあります。ただ、フリーフォントは数が少ないため、最適なデザインを選択することが難しく、見た目もちぐはぐになりがちです。

そういう意味では、「有料フォント」を使うと差別化になると思います。

有料フォントの料金って、どのくらいするんですか?

貝森:
1年色々なフォントを使い放題の契約で3-5万円くらいですね。僕も最初「だいぶ高いな」とおもいましたが、投資する価値は十分あります。

デザイナーの間では、モリサワフォントが定番なんですけど、ゲーム向けだと「フォントワークス」が使い勝手がいいと思います。「くろかね」というフォントはパズドラなど色々なところで目にしますね。

僕は街を歩いていて「このフォントいいな」って思ったら、後で何のフォントなのかを調べてストックしておくようにしています。

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※パズドラでも使われている「くろかね」フォント。(FONTO WORKSより)

「脱出ゲーム」はユーザーは獲得しやすいが、収益性が低い。

アプリ開発の初心者には「脱出ゲーム」はジャンルとしておすすめしますか?

貝森:
オススメではありますね、「脱出ゲーム」が強いのはランキング上位に入りやすくて、順位の維持がしやすいこと。

「CUBIC ROOM」シリーズは3作とも(1はリリースから2年経過)、AppStoreのゲーム総合150位以内くらいをキープしています。

いま個人でうまくいきやすいジャンルは、ランキングが伸びやすい「脱出ゲーム」か、収益性の高い「放置ゲーム」の2つかなと思います。

「脱出ゲーム」はどうしてダウンロードが伸びやすいのでしょう?

貝森:
「新作が出たら絶対やる」というような「脱出ゲームマニア」がいるんです。

人数で言うと日本に1-2万人は「脱出ゲームマニア」がいるんじゃないでしょうか。もちろん確証はないのですが、そうじゃなきゃ説明がつかないのですよね。

「CUBIC ROOM」シリーズは3作とも、ずーっと同じくらいのランキングなのですが、やっぱりこれは「3作ともダウンロードするユーザー」が多いからだと考えています。

ここまでロングランの「脱出ゲーム」も珍しいですよね、「CUBIC ROOM」が長く遊ばれている理由について、どう考えていますか?

貝森:
「誰もが、ギリギリ解けるレベルの謎解き」が受け入れられたのではと思います。

結局、脱出ゲームのキモは「謎解きの気持ちよさ」だと思うんです。「アハ体験」が出来るような「気持ちの良い謎」を提供することは心がけました。

「脱出ゲーム」は収益性に関してはどうでしょうか?

貝森:
「CUBIC ROOM」シリーズの収益性は低いんですよね。

特に「CUBIC ROOM2」が総合ランキング1位を獲得した時は、1ダウンロードあたりの収益性が0.8円まで一時期落ち込みました。

そこから、SSPの「アドフリくん」を入れて複数のアドネットワークを運用したり、マネタイズにも気を配った結果、現在は1ダウンロードあたり4〜5円の収益性までは改善できています。

cubicroom_monetize

それでも1ダウンロード5円ですか、けっこう厳しいですね。

貝森:
集中して遊ぶ「脱出ゲーム」は、広告モデルと相性が良くないですよね。

アプリの広告収益は「いかに長い期間遊んでもらえるか」と「いかに広告を見てもらえるか」という要素で決まってきますので。

あとは、1回クリアし終わったら、アプリを消されてしまうのも弱点です。

今から会社を辞めて「アプリ開発者とし独立したい!」という人がいたら、どのようにアドバイスしますか?

貝森:
だいぶ厳しくはなってきているので、気軽に独立するのはオススメはできないですね。自分が言うなという感じですが。笑

ラッキーゲームスさんも言っていましたが、会社で働きながらアプリ開発も並行して進めるのが安全かもしれません。

取材協力:Appliss

「CUBIC ROOM」シリーズ(Appliss WEBサイトへ
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編集後記

職人みたいで素晴らしいと思いました。この話を聞いたあとに「CUBIC ROOM」を改めてやってみると、気付きもあって面白かったです。効果音ひとつとってもゲームの完成度に影響するんですね。

後編(来週公開予定)では話題のヒットアプリ「みつけて!おじぽっくる」についても詳しく聞いてみました。

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アプリマーケティング研究所編集部 アプリのマーケティングメディアです。アプリの売上を伸ばす施策やデータが学べるマガジン「月刊アプリマーケティング」もスタートしました。最近の記事は新サイトにて更新しています。取材申請はコチラのページから。
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